フンコロ式でいこう!

まあ取り合えずコロコロ転がしてけば大丈夫、かな。

珈琲はお喋り

珈琲屋

まだ20代の頃、青山一丁目で働いていたときがある。青山、と聞くと、たいそうオシャレなところだろうと言う人がいるが、一丁目はそうではない。表参道と赤坂見附に挟まれた一丁目はとても地味な街だった。当時はツインビルとホンダがあるくらいで、シャレた服屋もヘアサロンもなかった。そしてもちろんカフェも。

 

なので、たまにコーヒーが飲みたくなると、表参道の大坊珈琲店まで行った。まだスターバックスタリーズも無かった時代。マスターは寡黙な人だった。店はカウンターだけでそれほど広くはない。客は一人で来る人が多かった。僕も一人だった。学生時代からジャズ喫茶に一人で通っていたので、一人が基本だ。

 

一人で行くと会話は無いわけで、あるとしたらコーヒー自体との「会話」のみである。ジャズ喫茶であれば、音楽があった。しかし大坊珈琲ではコーヒーだけだ。マスターは黒子のように影が薄い。なので、コーヒー自体の味をよくよく味わったのはこの店だと思う。濃さと、反比例するような液の澄んだ色が記憶にある。

 

残念ながら2013年に大坊珈琲店は閉店となった。この本は、その大坊珈琲店の大坊さんと福岡の珈琲美美の森光さんの対話集。寡黙だった大坊さんの思考や人生を知れて面白い。一人にできることは、カップ一杯のコーヒー。しかしその一杯に一人の人が持つ努力と創造性が充満している。そうか、大坊さんのコーヒーは雄弁だったのだ。