遅ればせながら英国のベストセラーミステリー作家・アンソニー・ホロヴィッツにハマっている。日本でも大ヒットとなった「カササギ殺人事件」のことは書評などで知り気にはなっていたが、生まれ持ってのへそ曲がり気質が邪魔をして「そう簡単にはベストセラーなんぞ読まんぞ」などと無意味な抵抗を続けていた。昨年、気まぐれで読み出すと、もうページをめくる手が止まらない。面白すぎるのであった。
「カササギ殺人事件」の次は「ユウガオ殺人事件」。この二作はまず題名がそそる。カササギ、ユウガオ、とミステリーではあまりお目にかからない言葉が魅惑的だ。カタカナであるところも謎めいていて、外連味として良い仕掛けだと感じる。ストーリーについてはネタバレとなるので一切触れずにおこう。ただ、僕自身がそうであるのだが、アガサ・クリスティ好きなら、めくるめく世界だと保証しよう。
この二作はシリーズで主人公は同一、スーザン・ライサンドシリーズと呼ばれる。つづく「メインテーマは殺人」からは新シリーズとなり、現時点で三作品が上梓されている。ホーソーン&ホロヴィッツシリーズだ。元刑事のホーソーンと作者であり小説の登場人物でもあるホロヴィッツのコンビの物語。僕はこのシリーズが前二作よりも更に好みだ。作者自身が小説に登場するスタイルが画期的なのだ。
現実と虚構を巧みに織り交ぜたスタイルは見事だ。そして何と言っても主人公、ホーソーンの人物像が魅力的である。難事件を難なく解決する点は、これまでのホームズやポワロ、メグレ警部などと同様だが、どちらかと言えばヒーローというより職人、しかも癖の強い男。そんな彼にホロヴィッツは出し抜かれ、引っ張り回され、いつの間にか魅了されている。久々に心より続編を待ち望む作家となった。