この時期、公園をウォーキングするには最高の季節だ。暑くもなく寒くもなく、湿度はちょうどよく、空気は澄んでいる。が、ふとそんな気分をかき乱す独特な香りが出現することがある。そう、銀杏だ。東京のシンボルマークにもなっているイチョウ。秋の黄色い落ち葉が地面を埋める景色は、春の桜に並ぶ美しさであろう。しかしその実である銀杏の香りは強烈。どうしても慣れない。
もう20年くらいになるだろうか。10㎞マラソンレースにハマっていたときがあった。関東で電車で行ける距離のマラソン大会にカミさんや友達とこぞって参加していた。大会はだいたい秋から春先までがシーズンとなる。なかでも横浜マラソンは、山下公園前がスタート地点で、海沿いを走るコースが大人気。ラン後は中華街で食事もできるのが魅力で、数年間続けて参加したものだ。
ある年、スタート地点での公園前でストレッチしながら待っていると、近くで女性外人チームが騒いでいるのが聞こえてきた。つたない英語力でも何とか意味が伝わってくる。こんな感じだ。「ワオ、この臭い何? 誰かウ〇チ漏らしたんじゃないの。何でみんな平気なのよ。スタッフに連絡した方がよくない? てか私吐きそうなんだけど」はははは、犯人は地面に落ちた銀杏であった。
調べてみると、イチョウはアジアの樹木で、欧米には存在しないらしい。そりゃ銀杏も知らないわけだ。ましてやあの香りも。。。外人ランナーたちは初めてあの芳香を嗅いだんだろう。いまでも毎年、近所の公園であの香りを嗅ぐたびに、このシーンを思い出しニヤニヤする。鼻をつまみながら周囲のランナーを凝視していた姿が忘れられないのだ。銀杏という名の災難、なんつってね。