フンコロ式でいこう!

まあ取り合えずコロコロ転がしてけば大丈夫、かな。

タチのオモチャ

ジャック・タチ「トラフィック《完全版》」【Blu-ray】

朝日新聞の先週の夕刊で、久しぶりに大好きな映画が取り上げられていてうれしくなった。ジャック・タチの「trafic」だ。邦題は「ジャック・タチの交通大戦争」だったと記憶する。フランスの映画監督であり俳優でもあるタチは、全部で6本の映画を残している。いずれもオンリーワンの味わいを持った、コメディ映画である。セリフはほぼ無く、演技で柔らかな笑いを誘う。

 

僕は学生の頃にタチを知り、夢中になった。最初に「ぼくの伯父さん」を見て、すぐにとりこになってしまったのだ。主人公のユロを演じるのはタチ自身。ユロはいつも頼りなく、実生活は何をやってもダメ。勤めなど向かないし、結婚なども無理な性格。でも、子供の気持ちはよく分かるし、女性には優しくて、憎めない伯父さんだ。やることなすことトンチンカンだが、そこが可愛らしくすごく面白い。

 

また、音楽やデザインがセンスがいいのだ。50年代から70年くらいまでのモダンセンスを上手に入れ込んでいて素敵だ。近代化への好奇心が高いようで、当時の先端デザインやテクノロジーをオモチャのように配置している。この「trafic」は主人公のユロは自動車デザイナー役で、アムステルダムで開かれるモーターショーに自ら設計した車で向かうという、実にオシャレで楽しい映画である。

 

タチ演じるユロのヘンテコさはもちろん、注目は登場するクルマたちの魅力だ。70年当時のヨーロッパ車は、カラフルでフォルムも美しい。どこかしら当時の未来志向の影響を受けていて、今では無駄としか思えないデザインが施されている。そこが楽しい。燃費だの、環境だのは完全に除外されている。それらを自在に並べて、自在に走らせて遊ばせるタチ。彼にとってはクルマは永遠のオモチャだったのだろうな。