フンコロ式でいこう!

まあ取り合えずコロコロ転がしてけば大丈夫、かな。

浮世絵が動かす

『熈代勝覧』の日本橋 (アートセレクション)

先週から今週にかけて、2つの別々の講義に関連して浮世絵を学んだ。一つ目は、情報音楽論で学んだサウンドスケープに係るものだ。講義で知った青学の鳥越けい子教授によるワークショップが地元で開かれ参加したのだが、そこで先生が紹介されたのが歌川広重による江戸自慢三十六興「道灌やま虫聞」だ。いまの西日暮里にある道灌山は、秋の虫の音を聴く名所だったらしい。虫の音を愛でながら歌を詠む場所だったのだ。

 

サウンドスケープは、音風景と訳される。単独の音だけでなく、環境全体から聞こえる音の景観を意味する。江戸時代の音風景を一枚の絵から想像するのは何とも楽しい作業だ。クルマの音も、飛行機の音も、電車の音もしない江戸の町。夜の静けさのなか、さぞや虫の音は美しく響いていたのだろうな。虫の音を愛でる民族というのは世界的にみて珍しいらしい。欧米人にすると単なる雑音なのだ。

 

二つ目は、デザイン史で知った「熈代勝覧(きだいしょうらん)」絵巻だ。この絵巻は、文化2年(1805年)頃の日本橋から今川橋までの大通り(現在の中央通り)の街並みを克明に描いたものだ。当時の日本橋のいわゆる商店街が、デザイン的に素晴らしく秩序を持っていたことが見ると分かる。現在の三越や三井、木屋などが当時のまま描かれている。のれんや看板が美しくユニークで、見飽きない。

 

二つの浮世絵を見て分かるのは、いずれもものすごいデータベースであるということだ。当時の風俗や価値観、センス、自然、ビジネスまで、様々な事実が発見できる。映像の無い時代であるし、録音機器ももちろん無い。が、絵を見ながら、頭の中で音を想像し、絵を動かしてみる。これが何ともクリエイティブな体験なのだ。これまでただ漫然と眺めていた自分だが、脳を動かして見ること、を学んだ気がする。