広告の仕事についたのは、ポスターが好きだったからだ。二次元の世界で、いかに工夫を凝らし、人の目を引き付けるのか。コピーなのか、ビジュアルなのか、紙質なのか、何なのか。動画のようなスペクタクルは起こしようがないが、その分、頭脳とセンスの勝負となる。貼られている期間もせいぜい一週間。その間にいかに人の心を動かすか。
ところが最近は、駅貼りポスターの仕事はめっきり減ってしまった。ひと昔前なら、新車が発売になれば、新聞一面広告（15段広告と言う）はもちろん、駅貼り連張りなんてことが日常茶飯事であった。いまは人の目の行き先が、スマホに大きくシフトしている。効率を考えると、広告予算はデジタルに移行するのは仕方ないだろう。が、作り手の立場で言うとちょっと寂しい。
若いころ、自分がコピーを書いたポスターが駅に貼られた日は、駅まで見にいった。そして少し離れた場所から、通行人を眺める。果たして彼らはポスターに目を向けるのか。まあ、多くの人は一瞥はくれるにしてもそう簡単に立ち止まったりはしないものだ。あるとき、コピーの一部を別紙で隠したポスターを制作したことがある。隠せば見たくなり、立ち止まるだろうと。これも思惑とは違い、なかなかめくってくれなかった。何人目かでカップルがめくってくれた時には心の中でガッツポーズした記憶がある。
いま僕のお気に入りのポスターが写真の東京メトロ構内のマナーポスター。僕が作ったものではないし、制作者がどなたかも不明だ。いわゆる商業ポスターではないので、タレントや最新の商品があるわけではない。気の利いたコピーがあるわけでもない。あえて言えば学生が校内用に作るポスターに近いもの。が、好き！ ノンコピーでいける、イノシシイラストがかわいすぎる。ギリギリで乗り込もうとする会社員の悲哀が、この鼻で伝わってくるのだ。アイデアって素敵、と素直に思える一枚です。
