マイルスの番が来た。世界中で語りつくされたスーパースターである。いまさら僕がどうこう言っても仕方あるまい。なので、内容の紹介などという野暮なことはやめておく。マイルスの中でも好きなアルバムをあげて、どこがどう好きかだけを話すことにしよう。マイルスは、その年月によって様々に変容し、周囲をかき回し魅了してきた。たとえて言えば、ピカソのような存在だ。
なので、ある時は分かりやすいが、ある時は分かりにくい。聴衆が付いていけないスピードで変容するから、時として反感を買う。これはジャズではない、とか。マイルスは終わった、とか。特に70年代以降、エレクトリック・マイルスと呼ばれた時代は逆風にまみれていたっけ。実は僕はその頃のマイルスが一番好きだ。ジャズよりロックが好まれた頃、ならばロックを取り入れるぜ、みたいな挑戦魂が素敵なのだ。
そして突然の長い沈黙のあと、1981年にこのアルバムが出た。僕のベスト・マイルスはこれだ。Man With The Horn。ク~ッ、このタイトルからしてたまらん。カッコ良すぎる。そうなのだ、もはやジャズだの、フュージョンだの、ロックだの、どうでもいいのである。トランペットを吹く男なのである。なんつう尖り方だ。81年はちょうど大学に入ったころ。若造はカムバックしたマイルスに圧倒された。
何と言っても一曲目のオープニングだ。ただならぬ気配から始まる。腹の底まで探りを入れられるようなサウンドだ。どうなんだ、クールなのか、と。そして全曲、ペットではない隙間部分、めっちゃ緊張感が伝わってくる。トランぺッターは数多くいるが、こんな緊張感を表現できるアーチストはいない。聴いているうちに喉が渇いてくる。こちらも感性を研ぎ澄ませねばと思う。次回もマイルスでいく。