フュージョン、そして特にギタリストは優しい顔の男が多い、気がする。そこが損をしているのだ。ロッカーが悪さをすると、ジャズマンがドスを聞かせた声で怒鳴りつける。彼らを見て、「いや、ほら、まあまあ落ち着いて。とりあえず飲も。ね、ね」と仲裁に入るのはおそらくフュージョニスト、しかもギタリストだ。だから舐められる。馬鹿にされる、気がする。その筆頭がラリー・カールトンだ。
78年の本作はいま聴いても名作だと感じる。が、当時は何となく軟弱に思って、大声で好きだとは言えなかった。ごめんよ、ラリー。しかし78年頃、というのは幸福な時代だったのだなあ、とつくづく思う。どのナンバーを聴いても、アメリカを吹き抜ける心地いい風を感じられるのだ。そして、そこに悪意は皆無だ。性善説だ。ヒッチハイクでクルマに乗れば、ドライバーはナイスな男なんだろう。
1曲目の「Room 336」。何度聴いたか分からんな。出だしからスティーリー・ダンぽさ全開で涙ちょちょ切れる。ギターが快走するとは、こういうプレーを言うのだろう。悪さは無しだ。そして2曲目の「Where Did You Come From」。僕はこいつが、このアルバムで一番好きだ。少し悪さを感じる。と言ってもいい感じのさじ加減だ。ラリーのボーカルもけだるくていい。ギターはへんてこに哀愁ある。
次に好きなのが7曲目。「Don't Give It Up」。飛ばしておる。でも笑顔は忘れていない。テクが無ければ、飛ばすのと笑顔の両立はできまい。さすがラリーだ。ソロパートもやりすぎず、余裕を持って飛ばしやがる。天才って、こういう余裕を自在に加減できちゃうんだな。ラリーも年を取っていまや立派な爺さんだが、相変わらず笑顔が優しい。でも昔みたいに舐められないだろう。もはや年輪が深い笑顔だからね。