フンコロ式でいこう!

まあ取り合えずコロコロ転がしてけば大丈夫、かな。

話し切ったねえ

どこからお話ししましょうか 柳家小三治自伝

小三治が亡くなった。入院していたわけでもなく、自宅でポックリ逝っちまったらしい。さすが江戸っ子であるなあ。最近では国宝になってしまったので、生で見ることは少なかったが、以前は何度か聞きに行った。誰もが知るように、枕が長くて面白い噺家だ。もちろん落語は上手いのだけれど、何というか自分の話をしてるときが活き活きしていて、楽しかった。落語家というより噺家という方がぴったりな人だった。

 

ある時、「歌」をテーマにした独演会があり聞きに行ったのだが、ほんとに落語は無しで「歌」だけの会だったので驚いたことがあった。歌への思いが強いだけでなく、歌自体上手いのだ。特に学校で歌った唱歌がいい。「夏の思い出」なぞ、のびのびと歌い上げて、こちらまで歌いたくなる。もっとも感動したのは「山のけむり」という歌だ。それまでは知らない歌だったが、素敵な歌ですぐに好きになってしまった。

 

亡くなったと聞いて読もうと思っていた近著を読んだ。インタビューを書き起こした本なので、まるで目の前で小三治がしゃべっているように思える。彼は自分の若き想い出を語る枕が多かったが、この本でも誕生から近況までみっちり語っている。まるで死を予期していたかのように、人生総まとめで語っている。いやしゃべっている、だ。落語のこともしゃべるけれど、基本は人の思いについて。とことんしゃべる。

 

落語の「青菜」の話は熱い思いを感じた。上手くやっちゃいけない。下手じゃダメだが、上手いというより、人の思いを理解して演じきることだと。青菜で言えば、植木屋の思いだ。庭と屋敷を眺める。出された刺身や氷、酒を味わう。それらに植木屋が心底感じた強い感動を何としても伝えたい。それなんだよ、と。さらに本の最後に一行、「読んでくださすって、ありがとうございました」と。泣けちゃいましたねえ。