フンコロ式でいこう!

まあ取り合えずコロコロ転がしてけば大丈夫、かな。

案のバランス

和菓子のアン (光文社文庫)

アンが好きだ。家族全員で赤毛のアンのファンなのだ。ファンが高じて数年前、舞台となったカナダのプリンスエドワード島まで行ってしまうほど愛している。そして餡も好きだ。こちらは家族全員ではなく、僕が偏愛している。子どもの頃よりも、50歳過ぎてから何故か餡好きが加速している。

 

歯医者理論という言葉を教えてもらったことがある。歯が痛いと、街を歩いていても他人より先に歯医者の看板を発見すると。気になることほど敏感に察知できるということだろう。最近の僕の場合、それは歯ではなく餡であった。ある時、新聞で写真の本の紹介が目に飛び込んできた。赤毛と餡が一つになってる(笑)。

 

さっそく図書館で借りて読んでみた。作者である坂本司のことは知らなかった。読み出すと、文体のテンポがライトで読みやすい。軽いと言えば軽いが、軽妙と言った方が正確か。18歳の女の子がふとしたことからデパ地下の和菓子屋でバイトを始める。そこで出会う珍客と和菓子の関係、そして秘密。ぐいぐい読ませる。

 

ちょっとしたテレビドラマのような展開だ。和菓子に絡む物語が5つ収録されていて、その変幻自在なストーリーを味わえる。毎回テーマとなる和菓子の由来を知れるのが楽しかった。そして猛烈に和菓子が食べたくなる。いますぐデパ地下に行きたい気持ち満載になる。いや近所の和菓子屋で十分だ。うずうずする。

 

キャラの色分け、味付け、勉強になった。作者はそれらを楽しみながら配置している。読者はそのおかげで、脳内でドラマをダイナミックに再現できる。と感心していたら、これはショーウインドーのなかの和菓子の配置ではないか、と気づいた。手を出したくなるように、巧妙に案を盛り付けている。坂本司、やるのお。他も読んでみよう。