映画論の講義で2週にわたり、小津安二郎監督作品について学んだ。前回は東京物語で、今回は麦秋だ。ちなみに麦秋とは6月頃の季節なんだそうだ。イメージだと9月か10月だが、二毛作である麦は、まず6月ころに収穫を迎える。梅雨入り前の短い乾燥した時期を麦秋と呼ぶと。知らんかった。映画のパッケージ写真をよく見ると、EARLY SUMMERと入っている。
お話はシンプルで、サザエさん一家のような三世代家族の新たな旅立ちまでの物語だった。軸となるのは娘の結婚と、老夫婦のリタイアメントである。春に始まり、賑やかな夏を経て、秋に別れていくという流れ。人生の輪廻を穏やかに、じんわりと描いている。いわゆる小津スタイルそのものの映画である。映画の中では、たいして大きな事件は起きず、たんたんと過ぎていく。朽ちていく、と言ってもいい。
何とも平和な時間であり、それは楽しめるのだが、どうも僕は途中から飽きてきてしまう。ちょっと上流家庭過ぎると思えてしまうからだ。苦労も挫折もほとんどない世界。じんわりと家族が離散するだけだ。そこが小津作品の真骨頂なのだろうが、、、、。と思っていつつ、「浮草」を見たら吹っ飛んだ。めちゃくちゃカッコええのだ。ドサ廻り一座の浮草稼業ぶりを描いた映画だが、絵もセリフもシャープ。
カメラはあの宮川一夫だ。しびれるカットがそこかしこに出てくる。雨の中、長屋の対面で罵り合う中村鴈治郎と京マチ子。ラストシーン、駅で煙草に火を点ける同じく二人。くーっ、カッコいい~。関西弁の切れも最高だ。東京物語や麦秋の、東京の優等生の世界とは真逆の世界。カラー映像も、色味が濃くて味が強い。超オススメである。にしても京マチ子って天才だな。惚れた!