20年以上昔、カップ麺のCMを担当していた時期がありました。当時、温かい食品の撮影で欠かせないスタッフが「湯気屋」さんでした。文字通り、麺に美味しそうな湯気を加える専門家です。独自の湯気出しマシンをスタジオに持ち込まれ、ここぞというシーンで絶妙に湯気を出してくれます。量もタイミングも思いのままで、まさに湯気のプロでした。独自技術だったのでしょう。競合会社は存在せず、業界唯一の方だったと記憶します。
この湯気屋さん、長いCM撮影時間のなかで、出番は一部です。ですが、いつ監督から呼ばれるか分かりませんので、基本的にスタジオの隅に待機しておられました。つまり待ち時間が長いのです。
この待ち時間や食事の時間、当時小僧だった僕に「これできる？」とよく知恵の輪を渡されました。見たことのない難しい知恵の輪で、いくつもお持ちでした。全然できないでいる僕を嬉しそうに眺めていて、時間切れのところで受取ると、あっという間に外してしまうのです。で、またニッコリ。
いま考えると悠長な時代でした。タレントさんの撮影は最初に済ませて、商品シズル撮影はたいがい夜中スタートで明け方終了。いまでは考えられないですね。なので、隙間に「知恵の輪」は十分に入り込めたんです。効率化、という面で言えば、無駄なものということになるでしょう。でもあの「知恵の輪」、実はスタジオのメンバーの疲労やモチベーションに少なからぬ効果を上げていた気がしています。
時代は移り変わり、湯気はほとんどCGで処理できるようになりました。湯気屋さんはどうされているのかな。。。どこかで小僧君に知恵の輪を渡してくれているといいな。
そんなことを思いながら、あの頃は買えなかった知恵の輪をいじっています。相変わらず、外せません(笑)。
