フンコロ式でいこう!

まあ取り合えずコロコロ転がしてけば大丈夫、かな。

生まれてはみたけれどを見たけれど

あの頃映画 松竹DVDコレクション 「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」

大学院の講義で日本の喜劇映画の授業を取っている。そこで課題となったのが小津安二郎の「生まれてはみたけれど」だ。小津のデビュー作品で無声映画である。小津作品と言えば、「東京物語」や「秋刀魚の味」くらいしか見ていない。そもそも喜劇映画を撮ってたのも知らなかった。

 

制作年は1932年、昭和7年。舞台は東京郊外、おそらく大田区あたりか。麻布から当時はまだのどかな蒲田あたりに越してきたサラリーマン一家。そのうちの小学生の兄弟が主人公だ。電柱が立ち並び、電車が通る郊外の風景は、そんな大昔とは思えぬほどモダンだ。何となく昭和30年代を思い出させる懐かしい世界。

 

そこで繰り広げられる当時の日々が楽しい。テレビもゲームも無いから、子どもたちにとっては喧嘩やいたずらが遊びだ。中流サラリーマン一家の食事も意外に豊かに見えた。ごはんも大盛りにして食べる。父の上司の家での映画上映会に呼ばれるシーンがある。上司が手持ちカメラで撮影した映像を楽しむところなど、随分とハイカラだ。

 

でもそこでふと気がついた。撮影から10年を待たずに第二次大戦だ。出演している子どもたちは皆、二十歳前後になっただろうから出征していっただろう。そう思うと胸が苦しくなった。「生まれてはみたけれど」は、会社人生のヒエラルキーを皮肉った題名だが、実はやがて戦死する運命を憂う題名に見えてきた。とても面白い喜劇だったが、時代と紐づけるとこんな悲劇はないかもしれない。