かつてない台風の夜。なすすべもなく、ただひたすら無事に行き過ぎてくれることを祈るのみである。そして、自然の前に、人間の無力を思い知る。と同時に、その巨大なエネルギーに、不遜にもどこか興奮する自分もいる。
進路も、雨量も、風量も、正確には計測することはできない。あらゆることを計測し、世界をさらに配下に置こうという現代であるのにだ。まるであざ笑うかのように、雨風水が無軌道に暴れまくる。
1979年の夏、伝説の野外ジャズライブが豪雨の中おこなわれた。LIVE UNDER THE SKYにおけるV.S.O.Pによる演奏だ。メンバーは、ハービー・ハンコック（ピアノ）、ウェイン・ショーター（サックス）、ロン・カーター（ベース）、トニー・ウィリアムス（ドラム）、フレディ・ハバート（トランペット）。
雨の中という最悪なコンディションが、逆にプレーヤーとオーディエンスをひとつにした名演だ。これから3時間ほどは、東京はまさに台風の目に包まれる時間。自分も仲間にも災い無きことを祈りつつ、「Eye Of The Hurricane」を聴くとしよう。歴史に残る台風を記憶に残すために。
